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2007年9月29日 (土)

[司法][光市母子殺害事件]主張変更の理由など、法曹なら理解していると思ったのだが

 あまり触れたくなかったのだけど、どうしても明らかにしておきたいので書くことにした。

 光市母子殺害事件で、橋下徹弁護士が「説明責任を果たせ」と叫び、弁護団へのバッシングが未だに続いている。「凶悪犯を弁護することが許せない」という刑事弁護への究極の無理解、もはや説得や相互理解が不可能な意見はさておき、いったい何について説明が足りないのか、俺はよく理解できないでいた。

 差し戻し審の弁護団は会見や資料提供など、橋下弁護士が騒ぐ前から行っていた(それをメディアがどう取り上げるか、それは弁護団の責任ではない)から、橋下弁護士がそれを知らなかっただけだろう。

 今回、橋下弁護士のブログで、何について説明が足りないのか、憤りの理由がよく分かった。

光市母子殺害事件弁護団に僕が求めたのも、事案の詳細を語れと言ったわけではない。
主張の変更の理由、すなわち1審・2審の弁護士は何をやっていたのかきっちりと説明しろと言ってるんだ。
橋下徹のLawyer’s EYE  説明責任 

 その理由は、裁判官はもちろん、法曹であれば分かっているものだと思っていた。しかし、どうもそうではないらしい。
 もし分かっていてこんなことを言うのなら、相当に悪質な煽りだが。

 俺は差し戻し審の弁護団の一人にだいぶ以前、敢えて「1審・2審の弁護士は何をやっていたのか」をなぜ言わないか旨、その理由を尋ねたことがある。曖昧にお茶を濁されたが、理由はそう複雑ではない。

 もう少し引っ張る。
 橋下弁護士は会見でこんなことも言っている。

 今回の事件の弁護団は、1審、2審で被告人は犯行についての具体的内容については争っていないにもかかわらず、上告審弁論に日弁連の行事のため欠席した上、加害者の「強姦」が「死者を復活させるための儀式だった」などとこれまでまったく主張してなかった新たな主張を展開した。差し戻し審で新たな証拠が出てくれば、新たな主張をするのは当然のことだと思うが、そうであるなら何ゆえ主張を変更したのか、きちんと被害者なり社会に対して分かるような形で説明しないといけない
 J-CAST ニュース  「弁護士会はバカ」 橋下弁護士会見でケンカ売る

 そもそも1、2審の弁護団と差し戻し審の弁護団は入れ替わっているので、現弁護団が説明し得る立場でもないのだが、こうした指摘を受けて、弁護団も集会で資料配付したQ&Aで触れている。

 Q どうして差戻し前の弁護人は,最高裁までの7年間も,差戻審の弁護団のような主張をしなかったのですか。
 A 私たちは,回答すべき立場にはありません。私たちが言えることは,これまでの裁判において審理が不十分であったということだけです

 情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊) 光事件Q&A~弁護団への疑問に答える~光事件弁護団

 さらりと触れているので一般には確かにストンと落ちないかもしれないが、法曹や裁判を取材した記者であれば想像できると思う。

 俺は以前、こんなエントリを書いた。

 裁判員制度では無作為に選ばれた6人の市民が有罪か無罪か、有罪なら刑期はどれくらいか、を裁判官とともに評議する。
 死刑が争われる事件を主題に、徹底して情状酌量を求める弁護を見たグループAと、厳密な事実追求を行った弁護を見たグループBがあるとする。結果はどうか。
 グループAは死刑1人と無期懲役5人。対してグループBは、6人が全員が無期懲役だった。
永遠の少数派として■本棚「『生きる』という権利―麻原彰晃主任弁護人の手記」

 光市の事件で1、2審弁護団の方針は、徹底した情状酌量作戦だった。被告の不幸な生い立ちを強調し、検察が主張する事実関係についてはほとんど争っていない。

 これに対して現弁護団は、厳密に事実関係を究明する方針で臨んでいる。原審と同様の主張では死刑は避けられないという事情もあろうが、現弁護団の弁護士たちはもともと、法廷では徹底して事実を追求する方針を貫いてきた。上述の模擬裁判も、弁護士は証拠の批判的検討と事実認定を重視すべきであるというメッセージだ。

 今枝弁護士がこんなことを書いている。

 声明  刑事弁護人よ、立ち上がれ - 弁護士・未熟な人間・今枝仁・・・光市事件と刑事弁護の理解のために - Yahoo!ジオシティーズ

 本来の否認事件についても、被害者遺族や社会の反発と、審理の長期化、否認態度の厳罰化をおそれ、保釈の早期達成を優先し、妥協し、量刑のための「土下座弁護」で、職務を遂行した自己満足に浸った。
証拠の批判的検討と事実認定を軽視し、謝罪と反省のみが求められる風潮に、我々がしてしまった。

 もっとも、これは弁護士だけが批判を受ける問題ではなく、検察側証拠や供述調書をほぼ無批判に受け入れる裁判所とか、検察は有利な証拠しか開示しくてよい現行制度とかも問題であって、だから検察が持つ証拠の全開示と取り調べの可視化が必要なのだけど。

 今枝弁護士はもちろん「我々」と自己批判的であるが、実はこれ1、2審弁護団への婉曲な批判でもある、と感じられた。

 差し戻し審の弁護団が「1審・2審の弁護士は何をやっていたのか」を明確に言えば、イコール1、2審の弁護人批判になってしまう。
 なぜなら、情状酌量作戦で事実認定を疎かにし、死刑回避だけを目的とした弁護を行ったことが、今になって禍根を残しているからだ。

 しかし、現弁護団は、1、2審の弁護団を生け贄にしてまで主張変更の理由を「世間様」へ明快に説明してバッシングを回避しようなどとは考えていない。弁護を引き受けた以上、粛々とバッシングに耐えながら、事実関係を明らかにしようということを最優先に努めている。ただ、それだけのことである。

 差し戻し審で弁護団が事実関係を追求した結果、例えばこんなことが明らかになった。もう一回、ヤメ蚊さんのとこから。

 Q 被害児は頭から思い切り床に叩き付けられているのですか。
 A そのようなことはありません。
 捜査機関がそのような自白調書を創作したにすぎません。法医鑑定によれば,被害児の頭部には頭蓋骨骨折等の痕跡は無く,後頭部から床に叩きつけられたという事実は否定されます。

 ※これについては後、検察側証人の法医学者がさらに否定する証言をしている。

 差し戻し審の弁護団はみな思慮深い、尊敬に値する人たちばかりである。どこかの弁護士のように、何でもかんでもペラペラ話せば良い、というわけではない。

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コメント

今枝さま。
こちらこそ、恐縮です。苦難は多いと察しますが、適正な刑事弁護に期待しています。

投稿: 管理人@踊る新聞屋-。 | 2007年10月12日 (金) 01時16分

TB、ご支持ありがとうございます。
参考にさせていただきます。
またいろいろご意見いただければなお幸いです。

投稿: 今枝仁 | 2007年10月 3日 (水) 11時47分

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