[映画][社会]マイケル・ムーア「SiCKO」(シッコ)をメモしつつ、構造改革とか自己責任とか相互扶助とか統治の方法論とか
マイケル・ムーアさんが、アメリカの医療危機問題を取り上げた「SiCKO」(シッコ)を観てきた。http://sicko.gyao.jp/
ここで言う医療危機とは、官製報道でよく目にする財政問題とかなんとかではない。公的医療保険制度がなく「官から民へ」よろしく民間の医療保険会社が幅を利かせた結果、低所得層だけではなく中間層でも病気や怪我をすれば回復不能な後遺症を抱えるか、場合によっては命を落とすか、助かったとしてもあっと言う間に医療費破産していく、自己責任と自助努力とネオリベという美しい価値観にまみれた社会の医療問題なのです。
※ネタバレありです。
アメリカの保険制度を「改革」したのはニクソン大統領。改革と規制緩和で医療技術は進歩し、すべての国民が高度な医療を受けられるだろう-という触れ込みだった。
いまアメリカには無保険者が5000万人。木材加工中に右手の中指と薬指を切断した男性は、縫合にそれぞれ700万円、120万円かかると言われ、やむなく薬指のみを縫合した。薬指を選んだのは、もちろん彼がロマンティストだから、ではない。
ただし、「SiCKO」が特に焦点を当てるのは、こうした無保険者ではなく、高額な民間の医療保険に加入している2億5000万人の「普通」の人たち。彼らは、ささいな病歴(既往症)を隠したなど、言いがかりとしか言いようのない理由で契約を拒否されたり破棄されたりして、医療にかかれず、かかれたとしても不十分で、命を落としたり没落していく。
一方で、医療保険会社や製薬会社は毎期、過去最高の利益をあげ、そのCEOは億万長者となっている。
ヒラリー・クリントンさんが、国民皆保険の導入を提言した。すると、笑えるようで笑えないネガティブキャンペーンが展開される。
社会主義医療にするのか? ソ連のような国にするのか? 何時間も待ってレベルの低い医療しか受けられないようにするのか。
政権中枢の政治家には、医療保険・製薬業界から多額の献金が渡っている。結局、ヒラリーさんも献金を受け、皆保険制度導入は引っ込めてしまった。
国が国民を従わせるには、まず恐怖(ここでは社会主義化)を煽ること。そして、教育・健康・自信を奪えばいい。不安に駆られ士気を失った民衆は、国の言うことに唯々諾々と従うだろう。というのは、英国の上院議員。余談ですが、ナチスのヘルマン・ゲーリング元帥も、同様のことを仰ってました。
では、皆保険制度のある国はどうなんだろう。社会主義なのだろうか?
カナダは医療費がタダ。カナダ人と「偽装結婚」して、国境をまたいで病院に行くアメリカ人もいる。英国も同様。アビーロードを逆立ちで横断しようとして脱臼したビートルマニアのアメリカ人が現地で受けた治療もタダだった。薬局には、薬以外の商品は置いていない。ドラッグストアでないから(多分)。
フランスも同様。しかも、高等教育もたタダだし、乳児を抱えた母親には公的な家事サービスまで用意。大企業社員であれば10週間のバカンスもとれる。パートや中小企業社員でも5週間。病気で入院すれば、すべて有給扱いとか。
医師は、患者を治療し病気を予防すればするほど報酬が上がり、やりがいを感じている。
これが社会主義?
対するアメリカ。大学を卒業するまで学費で借金漬けになり、働き始めれば借金返済と子弟の教育費を稼ぐために休んでもいられない。運悪く怪我や病気をすれば、大概の場合、そこでドロップアウト。
保険会社は支出を抑えるため、難癖をつけてできるだけ治療や手術を受けさせないようにする。ある黒人の病院職員は難病で骨髄移植手術が必要になったが、手術が実験的との理由で保険支給を拒否され死亡した。スラム街にある救護院の前には、入院費や医療費を支払えない年老いた患者がタクシーで捨てられていく。タクシーの依頼者は大手の病院だ。交通事故で意識不明のまま救急車で病院に運ばれた女性は、事前に救急車使用の連絡がないという理由で保険支払いを拒否される。意識不明のまま、連絡しろって言うの?
アメリカでゴルフ中に怪我をしたカナダ人は、我慢して帰国してから治療を受けた。アメリカで治療すれば数百万、カナダならタダだからだ。
アメリカの負の面、カナダ欧州の良い側面にそれぞれエッジを立てているから、差異は際だつ。
フランスには失業者があふれているし、カナダには若者のホームレスがいる。双方に正負の側面があろうが、少なくともアメリカで怪我や病気はしたくない。ってか、怪我や病気をせずに生涯を過ごすというのは、ほぼ奇跡に近い。
考えれば、全国に均一安価に手紙を届ける郵便制度、どこの地方でも一定水準以上の機会を確保する義務教育制度、誰でもタダで本を借りられる図書館…、アメリカにあるこうした制度は社会主義的だ。しかし、ムーアさんはこうした制度が好きだ。
さて、日本でも医療や保育料の無料化を求めると、必ず「財源は?」と問い返される。しかし、フランスや英国、カナダにできることが、なぜ日本でできない? 社会保険税(料)を含め日本の国民負担は、すでに欧州並み(確か)で、医療・福祉etc…充実のために消費税アップは不可避、というのは詭弁である。
したり顔で「しかし財源が」などと言うあなた、物わかり良すぎだって。
ムーアさんは、9・11でボランティアに取り組みながら、粉塵などの影響で健康を害し、しかし公的補償もボランティア基金の支給も拒否された救命士、民間医療保険会社の作為で医療から疎外された人たちを連れ、マイアミからカリブ海に出発する。
向かう先は、アルカイダの「テロリスト」が平均的米国人以上の医療を無料で受けているという、キューバのグアンタナモ収容所。
そこで、一行が経験することは…。
恐らく、日本の国民皆保険制度もすでに破綻しつつある。保険証の使い回しは、何度か取材したことがある。地方に行けば公立病院もどんどん閉鎖、縮小している。産科不足も深刻だし。
国保料だけではなく、給食費も保育園料も年金も生活保護も、そりゃ支払い能力があるにも関わらず踏み倒したり不正受給する輩も、多少はいるでしょう。
俺はきちんと払っているのに、払っていない人間のせいで損をしている。「モラル」や「規範意識」を問う、のもまた然り-まぁそんな面もあるかもしれないが-圧倒的多数は自分の首が絞まるにも関わらず、新自由主義、構造改革、ネオリベ、自己責任を時に熱狂的に支持してしまうのは、そんな不公平感にネオリベが心地いいからなのでしょうか。
しかし、俺(あなた)は自身が認識しているほど有能ではないし規範意識も高くない。隣組よろしく相互監視しながら分断され統治されている場合ではないでしょう。このまま、次に自己責任や規範意識を問われるのはあなたかもしれませんよ。
相互扶助の社会では、俺(あなた)が社会に貢献している価値以上の価値を俺(あなた)は社会から受けとっている。せめて医療や福祉、教育、社会基盤の分野で、そんなコンセンサスができないものかな。
もっとも、郵政民営化よろしく、10年後には健康保険制度「改革」で、日本もアメリカ化してそうな気がしないでもないんだけど。
さて「SiCKO」に戻る。ムーアを批判するのは簡単だ。
生まれ育ち世話になっている合衆国を悪く言う自虐史観の反米主義者で、自由と自助努力というアメリカの伝統を否定し国民皆保険を求める共産主義者だ、と。
これが当たっているかどうかの判断は、「SiCKO」を見てからということで。
映画の内容ですが、もちろんメモなど取っていないので、正確性は保証できませんですが、大筋は外していないと思います。
暗いニュースリンク マイケル・ムーア最新作『シッコ』公開前から大評判
海鳴社 (2006-04)
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