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2007年4月21日 (土)

[教育][学テ]学力低下と格差解消のジレンマ-教育版ネオリベ政策と復古主義のグロテスクな結託

 ちょっと以前まで、新聞はもちろん社会的にも、口にするのがタブーであった学力と所得の関係が最近、公に語られ始めた。例えば、保坂さんのエントリでも→ http://blog.goo.ne.jp/hosakanobuto/e/ffb5c4dac18823f3b6d60f9fb31327b3
 新聞でこの手の話を迂闊に書くと「貧乏人を馬鹿にするのか」という誤読者、クレームが避けられないため、信頼できるデータがあっても躊躇したものだけど、こうした事実を提示できるようになったこと自体は積極的意義を持つと思う。

 「逆学歴詐称」のニュースで、「学歴インフレ」という言葉を思い出して、苅谷剛彦さんの「大衆教育社会のゆくえ―学歴主義と平等神話の戦後史」を斜め読み直しして、所得と学力の関係につい認識し直したことがある。
 経済格差によって教育格差が再生産されている、というのは実は表層的な見方でしかない。

 「大衆教育社会~」で苅谷さんは、過去様々な研究やデータを引きながら、つまり、学力は所得ではなく親から受け継ぐ「文化資本」に依存する、というような指摘をされている。

 「大衆教育社会~」からちょっと記憶を頼りに例を引く。

 東大入学者数の輩出高を見ると、かつては都立日比谷、西、青山など名門公立高で上位20位のほとんどを占めていたのだけど、近年はご存じのよう開成、灘、麻布といった名門私立がほとんどを占める。
 これを持って、中高一貫の私学に通える比較的裕福な層しか東大に行けなくなっている-と考えられがちだけど、そうではない。
 東大入学者の親の職業を見ると、実は都立校優位の時代から医者や弁護士、大学教授、教諭といった専門職、上位ホワイトカラーが半数以上を占め、その比率は私学優位になった近年とまったく変わっていないのである。

 いわゆる「学力」の概念には色々あるのだけど、最近は東大はじめ難関大の入試問題は非常に洗練されていて、知識量だけでは太刀打ちできず、発想力や創造力が問われるそうであるので、取りあえずそういう学力を念頭に置く。もちろん、この手の学力の有無に積極的な善し悪しはない。

 で、所得と文化資本は≒ではあるが=ではない。洗練された文化を持つ人は既存社会で成功した人であり高所得者であることが多いので、一般的には学力は所得に依存すると考えてもいいし、塾に行ける子行けない子という分かりやすい例もあるので、それはそれで間違いではないのだけど、それではことを見誤る。

 1970年代、米国のL・ジョンソン大統領は「War on Poverty」(貧困との戦い)という理念の基、貧困地域に教育予算を手厚く配分する政策を執ったけど、これはそれほどの成果を上げることはできなかった。貧困地域・層に予算を重点配分すれば良いというわけでもないようなのだ。

 所得よりもっと深いレベルにある学力格差とその再生産。これはかなり深刻だ。

 「大衆教育社会~」では、「教育のメリット」という概念を加えて、教育問題に取り組む際のトリレンマ(三すくみ)を説明しているのだけど、ここでは教育格差問題のジレンマを考える。
 民主主義社会では、行政はできる限り家庭教育に介入してはいけないことになっている。当たり前だ。一方で、文化資本による格差の再生産を是正しようとすれば、行政が家庭に介入しなければならなくなる。究極には共同保育、ヤマギシズムに行き着いてしまうのだけど、これに賛同する人などいないだろう。どうしたものでしょう。

 最近言われる「学力低下」の問題は、実は「学力格差」の問題である。「ふたこぶラクダ化」と表現されるよう、全体の学力が押し下がったのではなく、できる子の割合はそれほど変わっていない一方、できない子が大幅に増え、中間層が薄くなっているという現象だ。ネオリベ的二極化が教育でも起きているというわけで、教育も政治の上部構造ということだ。

 で、状況認識はともかく、学力低下が深刻ということで、24日に全国学力テスト「全国学力・学習状況調査」が行われる。
 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku-chousa/index.htm

 表向き、子どもの環境・親の所得と学力の相関関係、状況を把握して政策に生かしましょうということになっているのだけど、一連の動きを見れば、これが学校選択制や教育バウチャー制度等々、教育版ネオリベ政策導入へのきっかけになるのは明確なのですね。

 「文化資本の伝達」で分かるよう、学校教育には限界がある。にも関わらず、学力低下の原因を学校や教員の指導力に短絡的に求めるのは無茶というものである(もちろん、困った先生が一定数いることは事実だけど)。
 一方で、子どもの環境と学力の相関関係、文化資本の伝達が改めて明確になれば、親の責任がなんだと(給食費の未納問題がなんかアレなのは、どうもこれとつながっているように感じるからなのだ→「学校給食費の徴収状況に関する調査」から、怪しい気配がぎゅんぎゅんします。)言われかねない。もちろん、子育ての一義的責任は親にあるけど、こういう誘導は「規範意識」的復古主義と容易に結びつき、近い将来、教育版ネオリベ政策とグロテスクな結託を見せてくれそうだ。

 「改正」教育基本法の10条にはこうある。

 <父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする。
http://www.mext.go.jp/b_menu/kihon/index.htm
http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/kakutei/06121913/06121913/001.pdf

 ボランティアに熱心な子は学力が高い、だからボランティアを必修(明らかな矛盾だけど)にしようとか、朝ご飯を食べる子は学力が高い、だから親への教育が必要だとか言い出されるのだろうなぁ。
 ということで、教育井戸端会議でなくて再生会議はすでに、「親学」とか言い出しているわけで(w
 教育再生会議:「親学」を緊急提言へ 分科会で決定

 実は、親の文化資本に依存する学力格差を解消するためには、劇的ではないけどそれなりに効果がある政策があって、その有効性も実証されているのだけど、なぜか文科省や国はこれには昔から消極的なのだ。

 それが何かかというヒントは、取りあえずこの2冊
 全国学力テスト、参加しません。―犬山市教育委員会の選択
 検証・地方分権化時代の教育改革 教育改革を評価する―犬山市教育委員会の挑戦

 まぁ、「テレビで見て感動したから、30人31脚を取り入れろ」と提言される有識者が教育井戸端会議でなくて教育再生会議で教育政策を左右しておられるのだから絶望的なんだけど、テレビを見る暇があるのであれば、新書の一冊でも読んだ上でおととい来て欲しいと願うのである。
http://www.kyouiku-saisei.go.jp/
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouiku/2bunka/dai3/3gijiyoushi.pdf

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