「銃器摘発体制強化」のデジャヴ 本棚■「手記 潜入捜査官」
10年ほど前にも、似たような状況があった。「平成の刀狩り」と言われる国策だ。
長崎市長銃撃事件、町田市の立てこもり事件と続き、銃器取り締まりの掛け声が大きくなっている。
http://www.sankei.co.jp/ronsetsu/shucho/070421/shc070421000.htm
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20070421ig91.htm
銃器対策本部、官房長官が取り締まり強化呼びかけ
政府は25日午前、長崎市長射殺事件や東京都町田市の拳銃(けんじゅう)乱射事件を受け、銃器対策推進本部(本部長・塩崎恭久官房長官)の会合を首相官邸で開いた。
塩崎氏は冒頭、「押収される拳銃の多くが外国製である実態を踏まえて、水際対策の強化を図り、外国捜査機関との協力を一層推進して、海外からの拳銃の流入を阻止することが重要だ」とあいさつ。銃器摘発体制の強化や水際対策、国際協力の推進などを盛り込んだ今年度の「銃器対策推進計画」を決定した。
「潜入捜査官」は、そんな国策に巻き込まれた大阪府警捜査員による悲劇の手記。
「殺し以外はすべて面倒を見る」と言われ暴力団組織に潜入するという「インファナル・アフェア」か「ディパーテッド」かのような実話だが、映画ほどの見せ場もなければハードボイルドでもない。捜査員が組織の都合で切り捨てられ、犯罪者にされる不条理と不正義が、ひたすら哀しい。
銃器をめぐる議論に、もう一つの視点を与えてくれる。
<大阪府警は平成7年(1995年)4月1日、全国に先駆けて拳銃摘発を専門に担当する銃器対策課を設置、筆者はそのメンバーに配属された。暴力団組織や麻薬密売組織に潜入、捜査協力者を仕立てて拳銃の密売情報を得ることが任務だった。髪の毛を茶色に染め、偽名を名乗り、広域暴力団幹部に接触、密売情報を得ることに成功した。
しかし、結果として大阪府警に裏切られることになり、最後に本人が得たものは、犯罪者の汚名だった(帯より)>
1994年、バブル経済崩壊とともに地下と表の経済の境目が曖昧になったころ、住銀名古屋支店長射殺事件など、一般人が巻き込まれる銃器犯罪が目立った。
決定的だったのは95年3月の国松(当時)警察庁長官の狙撃事件だ。
94年には警察庁に銃器対策課が置かれ、その後、全国の警察本部に同様の組織ができていたが、長官狙撃事件を境に「平成の刀狩り」が加速する。
「潜入捜査官」が「塀の内側に落ちるか外に落ちるか、危険が伴う」「殺し以外のことは警察で面倒を見る」--と、威勢のいい掛け声で潜入捜査を始めたのが95年4月。
しかし、銃器捜査は難しい。潜入工作、スパイ工作などリスクを伴う。
銃器対策課に籍をおいたものの、一丁の拳銃もあげられずに去る捜査員がほとんどという。
<責任感の強い前向きな捜査員ほど結果的に泥水の中の拳銃を掴んでしまう。いや掴まざるを得ない状況になってしまう。いったん掴みだした拳銃は、遠巻きの者が自らの手柄のように報告に向かい、手を汚した者は手続きの書類に加え、「思い十字架」を背負い込むことになる。
しかし、ひとたび不正が発覚すると、遠巻きにして自らの手柄のように報告していた者の態度は急変し、「詳細については担当者しかわからない」と逃げを決め込む=p66>
銃器捜査には一つの転換点がある。1995年、銃刀法改正により設けられた自首減免規定だ。
銃器摘発は国策。上からは「とにかく銃をあげろ」と掛け声ばかりがかかる。そこで、自首減免規定が悪用された。
<警察庁によると、1995年の銃刀法改正以後6年間で押収されたけん銃のうち、自首減免の対象は2916丁。このうち83%に当たる1323丁が暴力団によるもの。この数字から暴力団が他の犯罪を見逃してもらうためこの自首減免を悪用している疑いが濃厚です。http://www.haruko.gr.jp/news/2003/hot0326.html >
また、暴力団員や虞犯者と組んで、時には脅しなだめすかし懇願して拳銃を出させることも相次いだ。
「○○署に匿名の通報があり、駆けつけた捜査員がロッカーから拳銃一丁と実弾十発を発見した」というような記事になる類の拳銃押収事件。
こうしたヤラセ摘発は、全国各地で表面化した。有耶無耶に葬られたケースもある。
しかも、この首なし、まだやっていた。
■[不祥事][刑事事件]自作自演で拳銃押収、奈良の警部補を逮捕へ
<一方で、自首と同時に拳銃などを提出すれば刑を減軽または免除する、銃刀法の「自首減免規定」を活用し、銃器の効率的な押収を目指すとともに、密輸入・密売ルートの解明にも力を注ぐという。
=銃器犯罪 摘発徹底を指示 長崎市長射殺受け県警 「自首減免」も活用>
前回の教訓はどこに行ったのだろうか? 「罪作り」と現場捜査員が嘆いた銃器対策課はその後解体され、いま組織犯罪対策課などに衣替えしている。
長崎の事件で再び、拳銃摘発に本腰が入るのはいい。しかし、政治家やキャリア、マスコミが尻を叩けば、即、実績ができるというものではない。むしろ、現場捜査員は悲惨な状況に陥るか、モチベーションをなくすだけだ。
<警察官は、仕事をよくやる奴ほど首になりやすい。仕事をしないからといってクビになるやつはいない=p66>
リスクを背負う現場捜査員を守り、捜査予算が効率的に使われる仕組みをつくらないまま「拳銃をあげろ」と号令だけをかければ、再び不幸な「潜入捜査官」、悲劇の「銃対エース」を生み出すだけだろう。
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